何で治るかではなく、何で治すか?

『鍼で治りますか?』という質問をよく受けます。何でも鍼で治ると言う先生もいると思います。私もそう言いたいのですが、自分で自分に打った時も、誰かに頼んで打ってもらった時も『鍼で治った』と思った事はありません。

『鍼を打って欲しいくらいに拗らせた時に、鍼を打ったら効いた』

という感じです。他に手立てがないくらいヤバい状況の時に登場するのが、私の場合『鍼』です。他の方法で治るならとっくに治っている、ということです。

先日来られた会社経営者のお客様はもともと変形性膝関節症ですが、ネイルサロンで右膝を痛めました。

ネイルサロンではリクライニングシートにスツールを置いて足を伸ばしますが、膝の下が浮いている状況でカカトを乗せることにより膝が逆方向に反る『反張膝』になります。

トラブルを抱えていなければこの体勢で1時間くらい問題ないですが、膝をもともと痛めている人にとっては大惨事となります。

この方の膝はだいぶ曲がっている形がデフォルトになっているので、例え少し反対側にテンションがかかるとしても寸分の遊び(関節の余裕)もないのです。お皿の下の痛みと右外側の腫れがありました。これは膝関節の前側のフチがぶつかっているということです。

私は膝の治療がもともと得意なのですが、このお客様が来られたのは委託先のサロンで、手持ちの武器が指圧、オイルマッサージ、ホットストーンしかありません。

腫れを引かせて痛めた患部を直接手当てするなら、鍼とパルスを使いたいところ。これだと短時間で故障部位を治療することができますが、なにしろ私は今ハワイをテーマにしたロミロミの店にいる…

そういう場合、鍼以外に治す方法がないかというとそんな事はありません。

まず『腫れを引かせる』『関連痛を起こしているトリガーポイントを取り除く』ことを目的とします。そのためにオイルマッサージと指圧を選択します。これだけでも相当痛みの処置をすることができます。オイルマッサージは優しく撫でることで疲労物質や浮腫を流すことができるのでそれを右膝小僧に。優しく流した後はお皿の際や関節の際をクルクルと指で回してお掃除し、それからダイナミックに下から上へ全体を流していくのです。また、指圧では膝と直接関係のない部分の圧痛点を処置していきます。これをトリガーポイント治療といいますが、痛みの引き金になっている部分という意味です。

これがあると痛みで動きが悪くなるので血行も悪くなり自然治癒の妨げになることと、フォームが崩れることで余計なところまで痛くなるのです。

鍼治療とはアプローチの仕方が違うのですがこれでも原因となる痛みの処置は充分できるのです。

施術後は、膝の外側の浮腫だけがハッキリとしてきます。これは鍼治療後と同じく、患部にのみ腫れや炎症を集中させることで回復を早めるということです。どこかを痛めた時というのはその場所と近辺に炎症が広がります。それが悪いのではなく、最小限にする事で動きの制限や不快な痛みから解放し、出来るだけ正しいフォームを保ってもらうという狙いがあるのです。

そこにもっていくための手段として、鍼、指圧、オイル、電気、温め、冷却…などあるわけですが、そこが『何で治るかではなく、何で治すか?』ということです。

鍼を使えば治るというわけではなく、治癒に向けての『見立て』が大切なのです。私は鍼、指圧、オイルマッサージを得意としているのでこれであらかた治すのですが、これらを使って治療しているのであって、これらで治るわけではないのです。

あくまで治るのは本人の自然治癒力。私達はそのお手伝いをする人で鍼やオイルはそのお手伝いをするための道具に過ぎないのです。必ず人間には自然治癒力が備わっていますから、自分の力を信じて、他力ではなく自力で治っていく過程を観察しコントロールすることが一番大切です。

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上を向いた状態でカカトの下に台を置いて足を高くすると左側の図『過伸展』になるので注意!