心と精神と背中
芸能人の方の自殺が続き気分が重くなります。日本は先進国の中でも自殺が多い国。物質的には相当恵まれているにも関わらず、心は貧しい。物質的な幸福とのギャップが大きすぎるというか、心が置き去りになっているということの現れなのかもしれません。
私は職場が青山だった時(おそらくここにいる民の中で自分が一番貧乏なんだろうな)と思いながら街並みを歩いていました。靴ひとつ、犬ひとつとっても全てが輝いていて、その生活はどうやったら手に入るんすか?と思っていました。全てが洗練されていて、勝っている。そういう人達の極みが芸能人だと思うのです。でも、実際どうだかはわからなくなってしまいました。コロナが現れてから『今までの価値感は一変する』と言われており、それがまんまだとは思いたくないですが安定が不安定に変化したことは確か。そういう時にその人の本質が現れるということはあると思います。
精神的ストレスは意外にも背中に現れます。背中の、特に『棘突起』と呼ばれる背骨のゴツゴツした部分。ここに圧痛がある人はストレスフルになっている可能性大。圧痛と言っても痛いというより痛気持ちいい感じ。接客業や、人相手の商売の人に多く見られます。
もっと激しい症状だと『脊椎過敏症』という疾患に当てはまります。若い女性に多く、ノイローゼやヒステリーにより自律神経など神経系が過敏になる症状。棘突起に激痛が走るのだそうですが、検査しても特に異常は出てきません。
こういう心因性の場合、どこをどう治療するかということになりますが、背骨に対してアプローチすることは有効だと思います。棘突起に何か施すのは難しいというか、骨なのでやりようがありません。ここは温熱療法がいいかなと思います。
先日、お世話になっている接骨院の院長先生より『遠赤外線治療器』をいただきました。コレを使って脊柱を温めながら施術をしていこうと思っています。
昔、担当していた患者さんで、抗精神薬を10年以上服用した副作用によりジストニア性痙性斜頸になってしまった方がいました。筋肉が不随意に動いてしまう病です。うつ伏せになっていても右に勝手に首が動いてしまい、この方は重度でもあったので、手も勝手に動いてしまっていました。映画『エクソシスト』で主人公が悪魔に取り憑かれた時の動きはこの疾患をモデルにしていると言われています。昔はまだ医療技術も発達しておらず、情報も少ないため未知の病は悪魔仕業と思わずにいられなかったのでしょう。
こんな難しい方の治療など、スポーツ系鍼灸接骨院に勤めている私の専門外だろ…と思いましたが、この方もダメもとで『不眠をどうにかして欲しい』と来院されました。
わかったところでどうすればいいのか途方に暮れました。初日は私の思うがままに背中に鍼を打ち、赤外線ライトを脊柱に向かって当てました。そうすると、相変わらず首や手は曲がっているのですが、イビキをかいて寝てしまったのです。
不眠の方は施術中に眠らせることがまず第一段階ですので、まずは成功しました。それから毎日のように来られ、施術中にゆっくり眠ることができ、徐々に首の痛みを緩和したいという主訴に変わっていきました。私は、熱心に来られるのでこの機会に本格的に治療したいと思うようになり、色々な文献を調べてやってみました。でも結局、最初のシンプルな方法が一番心地よいと言われ、患者さんがそう言うなら…と、そっと文献を畳み、私プレゼンツの温熱療法+背中の鍼+首の鍼に落ちつきました。
この方は最初に来られた時身だしなみが整っておらず、ちゃんとお風呂に入っているのかも微妙な状態でした。精神疾患を抱えている方の特徴として『身なりに疎くなる』というのがあります。女性ならムダ毛を放置するなど、健康な状態だったらキチンとしようと思うところに気が回らなくなるのです。精神疾患を治す術は持っていないし、そんな治療風景では全くなかった(現場はそんなもの)のですが、気づいた時には髪を切り、似合う感じに染めて、キチンとした身なりで現れるようになっていました。私は毎日見ていたのでさほど驚きませんでしたが、久しぶりに分院から来たスタッフが見て別人と思ったようです。この方の治療は私にとってとても大きな経験を積ませてくれました。今でも財産だと思っています。
精神的な病、精神に影響を及ぼしている症状にはきっと脊柱の治療が効くのだ、とこの方の治療で思いました。鍼を置いている間だけではなく、刺して抜く手技の時も常に脊柱を温めていました。とにかくポイントとして外さなかったのが脊柱です。もう一ヶ所、自分で発見した場所もありますがそれは企業秘密です。何故か、精神的な訴えの方にテキメンに効く部分がありましたね。
ストレスが精神を蝕む時に連想するのは『脳』。普通は精神=脳という方程式が思い浮かびますが、人が物を考える時に使う言葉は『心』。心臓の心です。東洋医学ではまず心で物を考えます。心で受け止めるキャパを超えた時ににコントロールセンターである脳に影響が及ぶという考えです。陰陽五行では『心は神志を蔵す』といい『神志』が精神や思想といった脳の機能を表しています。
私達は深く物を思う時は胸に手をやったり、自分の胸に聞いてみるなどと言います。脳が精神ならば頭に手を当てるべきですが、何かに思い悩む時はまず心が受け止めているという考え方です。心の次に脳。脳にきた時には遅いかもしれません。だから、そうならないように心を休ませてあげなければいけないのです。
現代社会はもしかしたら心を無視して直接脳に働きかけるものが多すぎるかもしれません。
だから精神を病むのです。スマホやテレビから得られる情報は正にそんな感じですね。『そうあるべきだ!』と、意識に強く訴えてきます。そうあるべきである前に、本当にそうなのか?と私は思ってしまいます。この気持ちも度を超えれば全てを疑うようになり危険です。
情勢が不安定な時はスピリチュアルなど、思想の世界が活性化します。きっと、人はわからないものに対して納得のいく理由づけをして落ちつきたいのです。それが悪いのではなく、今不安定であることを受け止めて、自分の心に問いただせるようになるといいですね。それが心を健康に保つポイントだと私は思います。