ジストニア性痙性斜頸の首肩治療

映画「エクソシスト」のモデルにもなった奇病

あまり聞いたことのない病気「ジストニア性痙性斜頸」。抗精神薬の長期服用の影響により筋肉が不随意(自分の意思と関係なく)に動く症状です。それが主に首に顕著に現れて、何もしてなくても横を向いてしまったり傾いてしまいます。

映画「エクソシスト」では主人公が悪魔に乗っ取られて体が勝手に動く様を描いていますが、この病気がモデルだと言われています。

昔はまだ医療が発達していないので何が原因かわからず、悪魔の仕業とするしかありませんでした。そういう関係で医療的なことにも呪術師などが活躍したのです。

私がこの患者さんに出会ったのは接骨院で院内勤務していた時です。

鍼灸マッサージで治るのか…?

精神疾患を持っている方は身なりを整えることが苦手です。まずこの方も数日お風呂に入っていないような風貌で、診察前の真っ暗な待合室に頭をうなだれながら佇んでいました。

若干抵抗があった私ですが、おそらく鍼灸治療を求めているので私が担当することになるだろう…と思いました。もう一人の先生は柔整師だったからです。

そして初診。対面するや否や、首と腕が勝手に後ろに周りいうことを聞かない状態です。首が辛いのと不眠が主訴でした。

うつ伏せになっても首と腕が後ろに回り動くので正直鍼は刺したくなかった。だけど、この人は鍼を希望している。やるしかない。

数日お風呂に入っていない状態のため、触るにも抵抗があります。

私の技術ではどうにもならないことは目に見えているけどとりあえずいつも通り鍼をして、背中に赤外線をあてました。すると置いている間にグーグー寝ていたんです。

基本、不眠の治療は施術中眠らせること。もうこれで一つ解決したから良いではないか、と思いました。

禁忌部位へ鍼治療

痙性斜頸の治療には整形外科にも通っているようで、首肩周りに定期的にボトックスを打っていました。それでも何ともならず鍼治療に来たそうです。

ボトックスやヒアルロン酸はその場に留めておきたいものなので、鍼灸マッサージのような老廃物を流してしまう施術はやめた方がいいのでは?と何回も確認しましたが、やってくれと言います。

一回目の治療から自費なのに頻繁に来られるため、もう一番辛い斜角筋に前側から鍼を打つという禁忌に挑戦するしかありませんでした。

結果、何故かそれで楽になったんです。鍼を打った後円皮鍼をすることで酷い捻れが半分くらいになり、身なりも自然と整えるように。

そのうち来院のスパンも長くなり、就職したようです。

久しぶりにこの患者さんを見た受付さんが「誰だかわからなかった!」というほど改善したんです。

患部に近づく大切さ

就職先で出会った人にゴッドハンド的な鍼灸師を紹介されたということで私からは卒業したわけですが、(ここまで持ってきたの私だからな)と今でも心の中でマウントを取っています。

ジストニア性痙性斜頸の首の回旋は、不思議なことに患部を手で押さえるとおさまるそうです。色々調べてわかったことですが、手で押さえながら仕事をしている方もいるそうでなかなか大変ですよね。

今思うと円皮鍼が常に患部にあることでおさまっていたんじゃないかな。

鍼治療は一瞬辛いところを響かせる程度で絶対緩んでいない気がする。でも鍼は「やるだけで気が済む」という良さもあります。そこのここが辛い、という場所を直撃するのでそれは心も体も満足しますよね、理屈抜きに。

結局、ジストニア性痙性斜頸は治せていません。最後まで首と腕は動いているし、今後も精神薬の投薬は続きますし何も変わっていません。後はどこぞの鍼灸師が頑張ってくれるはず。

鍼治療に加えてボトックスも前側に打つようにしたらしく、それも症状改善に繋がったようです。円皮鍼の置いてあるところに打つようにしたということで、お医者さんが鍼灸マッサージに歩み寄るなんて珍しいですよね。

患部にできるだけ近づく治療の効果は身に染みて感じました。かなりインパクトのある患者さんでした。

精神疾患の根治は難しい

社会復帰して旅立っていきましたが、私にその経験に基づくメソッドができたわけではないので活かせておらず本当もったいないですね。だって、改善した決定的な治療が見つかったわけではないんですもの(涙)

精神疾患のケアは私の苦手とする分野ですが、苦手を承知でお願いされることは多々ありその度に色々挑戦させていただきました。マニュアル通りにやっても何も上手くいかず、えっ⁈ここ⁇というツボを使って改善することが多かったです。

苦手ですが経験だけ積んでいるのでお悩みの方はまずはご来店前にご相談ください。本当なら薬をやめて精神疾患そのものをコントロールし根治させたいくらいです。そう簡単にいかないですけどね。